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従業員の賃金を上げることで税額控除を受けられる賃上げ促進税制については、企業規模に応じた見直しが行われることになります。

はじめに

従業員の賃金を上げると税額控除を受けられる賃上げ促進税制については、企業規模に応じた見直しが行われます。

令和8年度税制改正大綱で示された賃上げ促進税制の方向性

令和8年度税制改正大綱では、賃上げ促進税制について企業規模に応じた明確な線引きが行われました。これまで一律に設けられていた賃上げ促進税制について、「すでに賃上げが進んでいる企業」と「依然として人材確保に苦しむ企業」との実態の違いを踏まえた見直しが行われています。具体的には、大企業向けの制度は前倒しで廃止される一方、中小企業向けの支援策は維持される運びとなりました。賃上げに対し「税制で後押しする段階」を終えた企業と、引き続き支援が必要な企業を区分する考え方が、今回の改正大綱の背景にあります。

大企業向けは廃止

大企業向けの賃上げ促進税制については、本来の適用期限である2027年(令和9年)3月末を待たず、2026年(令和8年)3月31日をもって廃止されます。これは、賃金上昇率がすでに高水準にあり、税制による後押しがなくとも賃上げが進む環境にあると判断されたためです。政策的には、「賃上げは税制インセンティブに依存すべき段階を超えた」という明確なメッセージといえます。大企業にとっては、賃上げを行っても税額控除による直接的な恩恵は受けられなくなります。

中堅企業向けは要件厳格化の上、令和9年3月末で廃止

中堅企業(従業員数2,000人以下で中小企業に該当しない企業)について、適用期限である令和9年3月末までは制度が継続されますが、要件が厳格化されます。なお、中小企業(資本金1億円以下の法人等、または従業員1,000人以下の個人事業主)は別の区分です。

  • 必須要件:賃上げ率4%(現行3%)以上へ引き上げ
  • 上乗せ要件:賃上げ率5%以上で控除率プラス5%、賃上げ率6%以上で控除率プラス15%(現行は賃上げ率4%以上で一律控除率プラス15%)

中小企業は現行制度維持

一方、中小企業については、人材獲得競争の厳しさや経営環境への配慮から、2026年度(令和8年度)は現行の要件・控除率が維持されます。これは今回の改正の中でも、中小企業にとって安心材料といえるポイントです。ただし、注意点もあります。企業規模にかかわらず、教育訓練費の増加による税額控除率の上乗せ措置は全区分で廃止されます。これは、教育訓練費の増加額を税額控除額が上回るケースがあるとの会計検査院の指摘を受けたものです。今後は、人材投資についても、税制効果だけでなく実質的な費用対効果がより重視されるでしょう。

区分改正の 方向性賃上げ要件備考
大企業廃止令和8年3月末で終了
中堅企業厳格化4%以上へ引き上げハードル上昇
中小企業維持現行通り引き続き 有利な条件

今後の検討ポイント

賃上げ促進税制は「誰でも使える制度」から、「企業規模と実態に応じた制度」へと大きく転換しました。特に中小企業では、引き続き活用余地がある一方、制度の期限や要件を正確に把握しておく必要があります。

設備投資促進税制で設備投資を後押し

令和8年度税制改正大綱では、日本経済の成長力強化を目的として、企業の設備投資を強力に後押しする方針が明確に示されました。

はじめに

令和8年度税制改正大綱では、日本経済の成長力強化を目的として、企業の設備投資を強力に後押しする方針が明確に示されました。特に注目されているのが、従来の特例措置を発展させた大胆な設備投資促進税制(特定生産性向上設備等投資促進税制)です。投資額の下限は中小企業者等でも5億円以上(大企業等では35億円以上)と、まさに大胆な設備投資を対象とした制度ですが、その内容を押さえておけば今後の経営判断にも役立つでしょう。

背景

大胆な設備投資促進税制が導入される背景には慢性的な人手不足、賃上げ圧力、原材料費やエネルギーコストの上昇があります。これらに対応するには、生産性の向上や省力化投資が不可欠であり、「投資をためらわせる税負担」を軽減するのが今回の狙いです。中小企業者等にとっても、単なる延命策ではなく、成長を前提とした投資を促す税制と位置づけられています。

制度の概要

本税制では、生産性向上や事業競争力の強化につながる一定の設備投資について、即時償却または税額控除を認める仕組みが導入される予定です。対象となるのは、その企業の事業に直接使われる下記の設備です。事務用の器具備品や、本店、寄宿舎等の建物や福利厚生施設などは対象外となります。

建物、建物附属設備、構築物、機械装置、工具及び器具備品、ソフトウェアで一定規模以上のもの

即時償却を選択した場合、通常は数年にわけて経費化する設備投資額を、取得年度に全額損金算入できるため、初年度の税負担を大きく軽減できます。一方、税額控除を選択すれば、法人税額そのものを直接減らす効果があり、利益が出ている企業ほど恩恵が大きくなります。税額控除の控除額は、建物、建物附属設備、構築物は取得価額×4%、機械装置、工具及び器具備品、ソフトウェアは取得価額×7%となっています。

控除限度額を超えた部分の金額については、原則として繰り越しはできません。ただし、予見し難い国際経済事情の急激な変化に対応するための計画について、産業競争力強化法の認定を受ける必要があります。

さらに経済産業大臣の確認を受けた場合に限り、3年間繰り越せます。この繰越制度は特殊な状況下でのみ適用される限定的な措置であることに注意が必要です。

「投資内容」と「タイミング」が大事

この税制を活用するうえで重要なのは、「何を買うか」だけでなく、「いつ」「どのような形で」投資するかです。制度には適用期限が設けられる見込みであり、契約日や取得日の違いによって適用可否がわかれる可能性があります。

また、補助金や助成金と併用する場合には取得価額の調整や税務処理に注意が必要です。補助金を差し引いた後の金額が対象となるケースもあり、事前の検討なしに進めると、想定していた税務メリットを得られない場合もあります。

設備投資を税務戦略として考える時代

大胆な設備投資促進税制は、単なる節税策ではありません。人手不足への対応、事業の持続性確保、将来の成長戦略と直結する制度です。だからこそ、設備投資は経営判断だけでなく、税務の視点を含めて検討する必要があります。

「更新だから」「必要だから」という理由だけで進めるのではなく、税制の適用可否や効果を確認したうえで実行することで、投資の価値を最大化できます。

年収の壁を178万円へ引き上げ

令和8年度税制改正大綱では、所得税の控除額を引き上げ、所得税における年収の壁(103万円/160万円)を178万円に引き上げる方針が示されました。

はじめに

令和8年度税制改正大綱では、所得税の控除額を見直し、所得税における年収の壁(103万円/160万円)を178万円まで引き上げる方針が示されました。

なぜ178万円なのか

178万円という数字は、平成7年(1995年)当時の最低賃金と現在の最低賃金の比率(約1.73倍)を、当時の非課税枠であった103万円に乗じて算出されています。

基礎控除の見直し

今回の改正では、全ての納税者に適用される基礎控除が見直されます。基礎控除額は、合計所得金額が2350万円以下の個人を対象に、現行の58万円から62万円へ引き上げとなります。

さらに重要なのが、基礎控除の上乗せ特例の拡充です。最大加算額は、現行の37万円から42万円へ引き上げられ、対象となる給与収入の範囲も、200万円相当までから665万円相当まで大幅に拡大されます。これにより、これまで上乗せ特例の恩恵を受けられなかった中所得者層にも、実質的な減税効果が及びます。

給与所得控除の引き上げと178万円の壁

会社員やパート・アルバイトなどの給与所得者に関しては、給与所得控除の最低保障額が見直されます。最低保障額は現行の65万円から69万円へ引き上げとなります。基礎控除と給与所得控除の改正を合わせると、所得税が課税され始める年収ラインは以下のようになります。

  • 基礎控除:104万円(本則62万円+特例42万円)
  • 給与所得控除:74万円(本則69万円+特例5万円)

これらを合計すると178万円となり、これが新たな「年収の壁」となります。これにより、従来は就業調整の目安とされてきた103万円/160万円という基準は、大きく意味合いが変わります。

適用時期と実務上の注意点

本改正の適用時期は、所得税が令和8年(2026年)分から、住民税が令和9年度(2027年度)分からとされています。給与所得控除の引き上げに伴い、源泉徴収税額表や年末調整の算定基準についても改定が行われる予定です。

また、今回の改正では、控除額が消費者物価指数の動向に応じて2年ごとに見直される仕組みが導入される見込みです。これは、税制を定期的に経済環境へ適合させる考え方であり、今後も「年収の壁」が固定されないことを意味します。なお、所得税の壁が引き上げられても、住民税や社会保険の壁は別途存在します。働き方を検討する際には、税金だけでなく、社会保険を含めた総合的な判断が引き続き重要となります。

高所得者への影響は限定的

給与収入が2500万円を超える高所得者にはそもそも基礎控除が0円になっていますので、今回の改正の影響は基本的にありません。

また、基礎控除の上乗せ特例で最大控除額の対象となるのも給与収入665万円以下である中所得者までです。給与収入が665万円以下であれば基礎控除は104万円になりますが、665万円を超えると基礎控除額は67万円まで減少し、手取り額が減少する可能性もあります。 このように、今回の「年収の壁」の引き上げには、実質的な所得制限がついていることにも気をつけましょう。

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